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Episode 147

本当の競合はExcelかもしれない ― SaaSプロダクトの代替手段分析

12分 5チャプター 日本語
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スクリプト

Chapter 1

オープニング ― 競合表を見ても勝てない理由

タカシ

皆さんこんにちは、タカシです。今日は SaaS プロダクトの代替手段分析を扱います。実は多くの会社が見落とすのですが、本当の競合は有名 SaaS ではなく、Excel やメールや人手運用かもしれないんです。

ミカ

ミカです。分かる気がします。営業では競合比較表を作りますけど、お客さんが実際に比べているのは『今のやり方のままで何とかならないか』だったりしますよね。今日はそこを経営目線で整理したいです。

タカシ

April Dunford は enterprise software の案件の 20〜30% が no decision、つまり現状維持に流れると説明しています。派手な競合に勝つ前に、現状維持に勝てていない。それが SaaS の厄介な現実なんですね。

ミカ

二割三割もですか。それなら競合分析というより、現場が今どうしのいでいるかの分析が先ですね。今日は『何を代替手段として見るべきか』『どうやってプロダクト判断につなぐか』を聞いていきます。

Chapter 2

基本 ― 代替手段分析は現状維持の構造を読むこと

タカシ

代替手段分析の核心はシンプルです。『うちの製品がなかったら、この顧客は何で問題をしのぐか』を具体的に答えることです。相手は他社 SaaS だけではなく、スプレッドシート、文書、既存システムの流用、担当者の気合いまで入ります。

ミカ

担当者の気合いまで競合、というのが現実的ですね。たしかに現場では『面倒だけど回っている』が一番強い気がします。新しいツールを入れると教育も移行も必要だから、多少つらくても今の運用に戻りがちです。

タカシ

その通りです。無料で慣れていて、社内事情にも合っている現状運用は、機能が弱くても強い。だから勝ち筋は『高機能です』ではなく、『どの手戻りが減るか』『誰の引き継ぎが楽になるか』まで言えないと見えてきません。

ミカ

なるほど。競合調査でよくある失敗は、比較サイトに載っている SaaS だけを見てしまうことなんですね。お客さんの shortlist に入っていない相手を研究しても、実際の失注理由とはずれてしまうわけだ。

タカシ

そうです。April Dunford も phantom competitor に振り回されるなと指摘しています。直近の失注理由にいない相手を想像で増やすほど、ポジショニングもロードマップもぼやけます。まずは現実に比較された相手を見るべきです。

Chapter 3

具体例 ― IntercomとLinearは散らかった代替運用をどう見たか

タカシ

Intercom は面白くて、顧客の会話をスプレッドシートに落とすだけでは『なぜその更新が必要か』が抜け落ちると明言しています。件数は数えられても、業務上の痛みや workaround の限界は見えにくいんですね。

ミカ

たしかに『200人がレポート機能を要望』だけでは浅いですよね。経営会議で説明したいのか、顧客への報告を手作業で作っているのかで、作るべきものは全然変わりそうです。件数だけでは優先順位を誤りそうです。

タカシ

Linear も同じ問題を扱っています。Customer Requests の説明では、フィードバックが support tickets、Slack、calls に散らばると、何を作るかと顧客が本当に欲しいものが切れてしまう。だから revenue や tier と一緒に要望を束ねるんです。

ミカ

なるほど、要望の件数だけではなく『どの顧客セグメントが、どんな代替手段に耐え切れなくなっているか』まで見るわけですね。これはプロダクト会議というより、かなり経営会議に近い情報の持ち方だと思います。

タカシ

Mercury の事例も実務的です。新製品の準備中に毎日のように多数の feedback と bugs が出る中で、Slack から自動で Linear に集約し、single triage queue で捌いています。代替手段は他社ツールより、散在した会話そのものだったわけです。

ミカ

これ、すごく SaaS っぽいですね。競合に勝つ前に、社内で情報が散らばる状態に勝たないと、結局お客さんの課題も掴めない。プロダクトの価値は機能より、まず仕事の流れを一つに戻すところから始まるんですね。

Chapter 4

経営インパクト ― 代替運用を置き換えると数字が動く

タカシ

OpenView が紹介した PERSUIT は典型例です。法務部門は外部弁護士の調達を email、Word、spreadsheet で回していましたが、導入企業では法務案件あたり平均 30% のコスト削減が見られたとされています。

ミカ

三割削減は大きいですね。これは『法務 SaaS と競合製品を比べた』というより、『バラバラの手作業に戻れなくなった』という勝ち方に見えます。つまり勝つ相手を見誤らなかったから、価値が伝わったんですね。

タカシ

Atlassian も同じ構図です。support と product、dev、ops が siloed だと AI を入れても効率が出ないとして、Customer Service Management を単一基盤で設計しました。ここで置き換える相手は、複数ツールと部署間 handoff そのものです。

ミカ

たしかに分断されたままだと、問い合わせは support、原因調査は開発、返答はまた support で、毎回熱が冷めますよね。お客さんから見ると一社なのに、中ではバケツリレー。そこが真の競合というのは納得感があります。

タカシ

公開情報では、Atlassian は annualized support cost savings を最大 1000 万ドル見込み、CSAT は 6 ポイント上昇、ticket resolution time は 8 日から 9 分に短縮したとしています。代替運用の置き換えが、そのまま経営数字に出た例です。

Chapter 5

クロージング ― まず『何でしのいでいるか』を聞きに行く

タカシ

明日からできることは明快です。直近の受注顧客と no decision 顧客をそれぞれ数件選び、『導入前は何でしのいでいたか』『どこで限界が来たか』を時系列で聞いてください。そこから代替手段の地図が描けます。

ミカ

そして要望管理でも、『何が欲しいですか』だけではなく、『今はどう回していて、誰がどこで困っているか』まで必須で取るわけですね。そうすると backlog が機能の墓場ではなく、経営判断の材料に変わりそうです。

タカシ

はい。代替手段分析は競合調査の補助ではなく、プロダクト戦略の起点です。皆さんの SaaS が本当に置き換えているのは何か。そこを言い切れるようになると、訴求も価格もロードマップもかなり強くなります。

ミカ

今日は『競合を見る前に現状維持を見よ』という回でしたね。皆さんのプロダクトも、まず Excel とメールと人力に勝てているか、ぜひ考えてみてください。それではまた次回お会いしましょう。