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Episode 150

登録だけでは始まらない ― SaaSプロダクトのアクティベーション設計

12分 5チャプター 日本語
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スクリプト

Chapter 1

オープニング ― 使い始めたのに定着しない理由

タカシ

皆さんこんにちは、タカシです。今日は SaaS プロダクトのアクティベーション設計を扱います。登録は増えているのに、使い始めた感じがしないまま消えていく。多くの SaaS が最初にぶつかる、かなり重たい壁ですね。

ミカ

ミカです。ありますよね。サインアップ数は会議で褒められるのに、一週間後に見ると誰も残っていない、みたいな。 onboarding を増やせば解決しそうに見えるけど、実はそこが大きな落とし穴なんですか。

タカシ

その通りです。アクティベーション設計は、説明を増やす仕事ではありません。ユーザーが最初に価値を感じる行動を決めて、そこまでの距離と迷いを減らす設計です。ここが曖昧だと、獲得したリードが高い確率で蒸発します。

ミカ

今日は、 activation と onboarding の違い、どの行動を指標にするべきか、 product-led と sales-led で何が変わるか、さらに具体的な SaaS 事例まで聞いていきます。

Chapter 2

基本 ― activation は設定完了ではなく価値到達

タカシ

まず大事なのは、 activation と time to value を分けて考えることです。Amplitude は、初回設定が終わっても、ユーザーが解決したかった問題に触れていなければ価値到達ではない、と整理しています。

ミカ

なるほど。プロフィール入力や通知設定が終わっても、それだけではまだ嬉しくない、ということですね。ユーザーから見れば、設定が終わったことより、自分の仕事や業務が一歩進んだかどうかのほうが大事ですもんね。

タカシ

ええ。しかも Amplitude の 2025 年 benchmark では、初週の activation が強いプロダクトの 69 パーセントが、3 カ月後の retention でも上位でした。価値を早く感じさせることが、かなり強く継続率を予測するわけです。

ミカ

しかも上位群でも Day 1 が二割前後で、 Day 7 にはさらに落ちるんですよね。待っていればそのうち分かるだろう、はかなり危ない発想だと分かります。最初の数日だけで、ほぼ勝負がついてしまうんだなあ。

タカシ

その通りです。だから経営者が先に決めるべきは、何を activation event と呼ぶかです。OpenView は、 SaaS の activation は Aha moment に到達した比率であり、理想的には 1 日から 3 日でそこに達する設計が望ましいと述べています。

Chapter 3

設計 ― 流入文脈ごとに最短導線を変える

タカシ

ここで効いてくるのが導線設計です。Slack の開発者向けガイドでは、最初の 30 秒で達成してほしい key task を決め、その文脈に合わせて onboarding を始めろと書かれています。全員同じツアーではないんですね。

ミカ

たしかに、 slash command から入った人と、ただ初めて開いた人では、知識量も目的も違いそうです。同じ説明を全員に流すと、詳しい人には邪魔だし、初心者にはまだ早すぎる説明になるかもしれません。

タカシ

だから activation 設計では、流入経路、役割、やりたい仕事に応じて最初の CTA を分けます。しかも Slack は、非本質的な onboarding はスキップ可能にしろとも言っています。説明の完走率より、最初の成功体験が優先です。

ミカ

ここ、 product-led と sales-led でだいぶ違いそうですね。 self-serve なら一人で数日以内に価値到達させたいけど、 enterprise は管理者設定や権限調整があって、最初の一歩自体が複数人になりそうです。

タカシ

まさにそこです。PLG では、 first project 作成や初回共有のような自己完結イベントを短い window で追う。一方 sales-led では、導入完了ではなく、最初のチームが本番で使い始めた、最初の業務が回った、といった live value を activation に置き直す必要があります。

Chapter 4

具体例 ― Voiceflow と MYOB と Appcues に学ぶ

タカシ

Voiceflow は分かりやすい例です。OpenView の記事では、 self-serve activation が 30 日で 3 パーセント未満でしたが、ユースケース別の YouTube 動画、テンプレート、手順ガイドを前段に置いた結果、 activation は最大 17 パーセントまで上がりました。

ミカ

しかも tutorial 経由の人は他経路より 10 倍高く activate したんですよね。これ、 onboarding の中を少し磨くより前に、そもそも何ができるかを具体ユースケースで約束したほうが効いた、という話に聞こえます。

タカシ

そうです。MYOB も同じで、 setup rate が 14 パーセント前後に留まっていました。そこで最初に経験と利用目的を聞き、会計、請求、給与で checklist を出し分けたところ、 global の setup rate が 21 パーセント改善しました。

ミカ

全員に同じ最初の仕事を押し付けなかったのが効いたんですね。銀行連携を先にやる人と、請求書送付が先の人では、早く価値を感じる順番が違う。 checklist の完了率が 40 パーセント超えたのも納得です。

タカシ

さらに Appcues 自身は、最後の welcome modal で選択肢を減らし、 flow 作成画面へ直接送るだけで activation を 2.5 倍にし、 welcome 完了から次の行動までの継続率を 132 パーセント改善しました。最後の一歩の摩擦は侮れません。

Chapter 5

クロージング ― 指標と導線を同時に設計する

タカシ

明日からやるべきことは明快です。まず、 7 日後や 30 日後の継続率が高い行動を洗い出し、 activation event の仮説を一つ決めてください。そのうえで、価値前に必須でない設定を後ろへ送る。ここから始めるのが実務的です。

ミカ

そして、流入経路や顧客タイプごとに最初の CTA を変えるんですね。 product-led は最短で一人の成功、 sales-led は最初の本番利用まで含めて設計する。数字と導線を別々に考えないのが大事だと分かりました。

タカシ

ええ。アクティベーション設計とは、 onboarding を厚くすることではなく、価値までの距離を短くし、その到達を測れるようにすることです。今日は SaaS プロダクトのアクティベーション設計を取り上げました。ではまた次回お会いしましょう。