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Episode 155

追う数字を間違えると伸びない ― SaaSノーススターメトリクスの設計

12分 5チャプター 日本語
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スクリプト

Chapter 1

オープニング ― 数字はあるのに、なぜ SaaS は迷うのか

タカシ

皆さんこんにちは、タカシです。今日は SaaS プロダクトのノーススターメトリクスです。実は数字をたくさん見ている会社ほど、どの数字を信じるかで迷うことがあります。追う数字を間違えると、頑張っているのに伸びないんですね。

ミカ

ミカです。たしかに、登録数も MAU も売上も見ているのに、結局どれを一番大事にするのか曖昧、みたいな会社は多そうです。会議ごとに主役の数字が変わる感じ、ありますよね。ノーススターって、その迷子状態を止めるための指標なんですか。

タカシ

その理解でかなり近いです。ノーススターメトリクスは、単なる重要 KPI ではなく、顧客が価値を得た量と、将来の売上や継続率をつなぐ中心指標です。機能出荷数ではなく、価値実現を軸に意思決定をそろえるためのものなんです。

ミカ

今日はそこを聞きたいです。見栄えのいい数字と、本当に経営判断に使える数字は違うのか。あと、ひとつの数字に寄せすぎて危なくならないのか、そのあたりも含めて、経営者目線で丁寧に整理したいです。実務感もほしいです。

Chapter 2

基本 ― 良いノーススターは顧客価値の代理指標

タカシ

まず大事なのは、良いノーススターは増やしやすい数字ではなく、顧客価値に近い数字だということです。Amplitude は、顧客価値に沿い、プロダクト戦略を表し、将来成功の先行指標であることを条件に挙げています。

ミカ

先行指標というのがポイントですね。売上や ARR は大事だけど、起きた結果を見ているだけで、次に何を直せばいいかは分かりにくい。経営会議で眺めるには良くても、改善には遠い。だから、その手前にある価値行動を見る必要があるわけだ。

タカシ

そうです。たとえば self-serve SaaS なら、単なる trial 数より、初週に複数ユーザーが実際に使った trial account のほうが、更新や課金に近い。OpenView も、SaaS の平均 activation rate は 36 パーセント、中央値は 30 パーセントだと示しています。

ミカ

なるほど。登録しただけでは価値が出ていないから、ノーススターに置くと会社全体が浅い最適化に流れるんですね。派手に増えるけど継続しない数字より、少し地味でも価値に近い数字を選ぶ。そのほうが後で効いてくる、と。

タカシ

その通りです。ただし、ひとつの数字だけで全部は語れません。Mixpanel は、良い north star は product change に反応し、ユーザー価値を集約し、事業価値に結びつき、2 年から 3 年は使えるべきだと述べています。つまり、短命な流行 KPI では困るんです。

Chapter 3

具体例 ― 会社全体の判断軸になると何が変わるか

タカシ

具体例が分かりやすいです。Amplitude が紹介した匿名の B2B SaaS 企業は、6,500 社、2,500 万人超の従業員向けに製品を提供していましたが、各プロダクトで成功指標がバラバラでした。そこで Weekly Builders という共通指標を置いたんですね。

ミカ

Weekly Builders、名前からしていいですね。毎週どれだけ顧客が実際に価値を作れたか、みたいな感じでしょうか。全員が同じ数字を見ると、短期の売上や声の大きい要望だけに引っ張られにくくなりそうです。

タカシ

実際、その会社はノーススターを据えた後に、数年で最大の利用増加と 5 から 7 パーセントの retention 改善を出しています。ここで効いたのは、ダッシュボードの見栄えではなく、各 team の施策が共通の価値指標へつながったことです。

ミカ

つまり、ノーススターは目標管理の飾りじゃなくて、ロードマップや実験の優先順位をそろえる基準なんですね。何を作るかの議論が、好き嫌いではなく、この数字を動かすかで話せるようになる。そこが現場に効くわけだ、と感じます。

タカシ

もう一つ面白いのが Primephonic です。同社は最初 MAU と DAU を見ていましたが、Sonos や Chromecast 経由でも使われるため、アプリ起動回数では価値を測れませんでした。そこで media minutes consumed に切り替えたんです。

Chapter 4

設計 ― ノーススターは単独で置かず、入力指標と組にする

ミカ

それは分かりやすいですね。ユーザーは音楽を楽しみたいのであって、アプリを起動したいわけじゃない。価値の本体に近い指標へ寄せたから、機能の良し悪しも判断しやすくなったわけだし、議論もぶれにくくなりますね。

タカシ

さらに Primephonic は onboarding で初心者、中級者、上級者の persona を分け、完了からの conversion を 20 パーセント台からほぼ 80 パーセントまで改善しました。ノーススターは、誰がどう価値を得るかの理解と一緒に作ると強いんです。

ミカ

でも、ひとつの数字だけだと怖さもあります。たとえば利用件数を伸ばした結果、雑な使われ方が増えたり、サポート問い合わせが爆増したりしたら、むしろ悪化ですよね。数字が伸びても不健康、はあり得ます。そこはどう見るんでしょう。

タカシ

そこで必要なのが input metrics と balancing metrics です。Typeform の事例では、会社全体の north star を net retention に置きつつ、各 team は Typeform 作成数、team 機能利用、integration 利用のような leading indicators を持っていました。全社指標と入力指標の二層構造ですね。

ミカ

なるほど。Product だけがノーススターを持つのではなく、Sales、CS、Marketing も、その数字にどう貢献するかを入力指標で持つわけですね。逆に部門ごとに別の北極星を乱立させると、同じ顧客に違う最適化を始めてしまう。

Chapter 5

クロージング ― まずは継続率と相関する行動を一つ探す

タカシ

最後にまとめます。ノーススターメトリクスは、見栄えの良い数字を選ぶことではありません。顧客価値を表し、product change で動き、将来の継続や売上につながる指標を一つ置くことです。その下に 3 から 5 個の入力指標と副作用を見る指標を置く。これが基本です。

ミカ

明日からやるなら、直近 6 カ月か 12 カ月の cohort を見て、更新率の高い顧客が共通してやっている行動を一つ仮説にするのがよさそうです。それが本当に顧客価値を表しているか、全社で言葉を合わせるところから始めたいですね。

タカシ

ええ。数字を減らすことは、思考を浅くすることではなく、判断を鋭くすることです。何を伸ばせば顧客が残り、会社が伸びるのか。その一本線を引けると、SaaS の product 判断はかなり強くなります。今日はノーススターメトリクスでした。ではまた次回。