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Chapter 1 オープニング ― ログは増えたのに、なぜ SaaS は迷うのか
皆さんこんにちは、タカシです。今日は SaaS プロダクトにおける利用データ計測です。実はログをたくさん取っている会社ほど、あとで意思決定に使えないという逆説がよく起きます。数字はあるのに、判断が曖昧なんですね。
ミカです。ありますね、それ。イベント名が大量に並んでいるのに、結局どれが顧客価値に近いのか分からない。しかも会議で見るたびに、使う数字が違う。計測しているのに迷子、みたいな状態です。
利用データ計測の本質は、ボタンのクリック数を集めることではありません。顧客が価値に到達した瞬間と、その先の継続や拡張につながる行動を、再現可能に測ることです。そこを外すと、ログは騒がしいだけになります。
今日はそこを知りたいです。ノーススターメトリクスの次に、何をどう測れば input metrics になるのか。特に B2B SaaS だと、個人の操作だけでは足りなさそうなので、その設計を実務寄りに整理したいです。
Chapter 2 基本 ― tracking plan と account 視点が土台になる
まず重要なのは、実装前に tracking plan を作ることです。Amplitude は、イベント名、プロパティ、taxonomy を標準化してから計測を書くべきだとしています。先に埋めて後で整える、は大体うまくいきません。
分かります。開発ごとに名前が微妙に違うと、同じ意味のイベントが三つある、みたいな事故になりますよね。しかも funnel を組もうとしたら重要な property が欠けている。後から直すほど高くつくやつです。
その通りです。SaaS で先に決めるべきなのは、便利機能の利用ではなく、コアワークフロー完了をどう測るかです。たとえば初回レポート作成、初回承認完了、初回チーム共有のように、価値の本体へ近い行動を定義するわけです。
それって、前回のノーススターの話ともつながりますね。北極星の下に置く input metrics を、ちゃんと取れる形にするのが利用データ計測だと。計測設計は、分析のためというより経営判断の前提を作る仕事なんですね。
さらに B2B SaaS では user と account の二層で見る必要があります。Amplitude は user と organization を主要 entity とし、revenue や利用機能数、ユーザー数のような情報は organization property として扱うべきだと整理しています。
Chapter 3 具体例 ― 何を測ると product 判断に使えるのか
ここ、B2B SaaS っぽいですね。一人のヘビーユーザーが頑張っているだけなのか、会社全体に広がっているのかで意味が全然違う。個人の DAU が増えても、契約更新に結びつくとは限らないですもんね。
その違いを見せる例として、Amplitude の B2B SaaS dashboard は Daily Active Businesses と Daily Active Users を分けています。企業数の活性化と個人利用を分離して見ることで、導入が広がっているのか、局所的なのかを判断しやすくしています。
なるほど。つまり account 単位で、何社が動いたか、何人に広がったか、どの role が使っているかまで見るわけですね。営業主導で売っている SaaS なら、受注後に管理者だけ触って終わる、みたいな詰まりも見つけやすそうです。
Mixpanel の Softplan 事例も参考になります。Softplan は 3,500 社超の顧客と 5 万超の月間ユーザーを抱える中で、まず goals と metrics を定め、そこから events と properties を決めました。順番が逆ではないのが重要です。
先に『何を判断したいか』を決めるんですね。とりあえず全部取るではなく、支払い行動を見る、新しい顧客セグメント向けのソリューション判断に使う、と用途を定める。そうすると、追うべきイベントも自然に絞れますね。
加えて Mixpanel は 2025 年に、B2B 向けの Account Profiles と Activation Metrics を案内しました。戦略アカウントの power user は誰か、活性度はどうか、どの activation funnel で詰まるか、upsell 余地はどこかを見やすくしたんです。
Chapter 4 設計 ― ID と handoff を外すとデータは壊れる
でも、そこまで見ようとすると、ID 設計がかなり大事そうです。顧客名の表記ゆれとか、環境ごとに別 account 扱いとかがあると、同じ会社の行動が分断されそうですし、営業から CS の handoff も追いにくそうです。
そこは Pendo がかなり明確で、globally unique な Account ID を推奨し、後から Account ID を変えると履歴の連続性が壊れるとしています。つまり計測は、あとできれいに見せる仕事ではなく、最初に壊れない鍵を配る仕事なんです。
鍵を配る仕事、いい表現ですね。確かに ID が揺れると、初回設定から継続率まで一本で追えない。しかも B2B SaaS は sales-led の handoff があるから、受注後の管理者設定、チーム招待、初回成果までつながっていないと学習がたまらない。
その通りです。Amplitude Accounts も Salesforce データを product usage に重ね、account health や product qualified lead を見られることを打ち出しています。営業案件として勝った後に、プロダクト内で本当に立ち上がったかを同じ線で見るわけです。
つまり失敗パターンは、クリックイベントは山ほどあるのに価値イベントがない、user 単位しか見ていない、ID がぶれる、受注後の handoff を追っていない、の四つにだいたい集約されそうですね。ログはあるのに学べない理由が見えてきました。
Chapter 5 クロージング ― まずは value event と account_id を決める
最後にまとめます。利用データ計測は、イベントを増やす仕事ではありません。ノーススターの下にある input metrics を、value event、頻度、深さ、チーム展開、遅延で測れるようにし、すべての主要イベントを user と account の両方で結ぶ仕事です。
明日からやるなら、まず一つの value event と、ぶれない account_id を決めるところからですね。そのうえで tracking plan を作り、受注から初回価値、定着、拡張までを一本で見る。今日は SaaS の利用データ計測でした。ではまた次回。