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Episode 180

設定で詰まると、二度と戻らない ― SaaSデザインの初回設定体験

12分 5チャプター 日本語
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スクリプト

Chapter 1

オープニング ― 初回設定で止まると SaaS は始まらない

タカシ

今日は SaaS デザインの中でも、かなり経営インパクトが大きい初回設定体験です。契約や登録まではできても、連携や権限設定で止まると、製品の価値を見る前に利用が止まります。最初の設定は、実は売上の入口なんです。

ミカ

たしかに B2B SaaS って、使い始める前に管理者設定や外部連携が多いですよね。登録できたのに始められない、みたいな体験はかなりありそうです。今日はその詰まりやすい最初の設計を、具体例つきで知りたいです。

タカシ

ええ。初回設定体験は、親切に説明を並べることではありません。誰が最初に何をすれば価値へ近づくかを絞り込み、迷わせず前進させる設計です。ここが重いと、優れた機能があっても『難しそう』で終わってしまいます。

ミカ

なるほど。機能が良いかどうか以前に、最初の設定で『自分には無理そう』と判断されるんですね。今日は、管理者向けの重い設定をどう軽く見せるか、その順番の作り方をしっかり整理したいです。

Chapter 2

原則 ― 最初の 3〜5 タスクだけを見せる

タカシ

まず原則です。Slack の開発者向けガイドは、最初の三十秒で達成してほしい行動を決め、その行動に合わせて onboarding を設計すべきだと述べています。歓迎メッセージでは、アプリ追加か外部連携か、とにかく次の CTA を明確にしろという考え方です。

ミカ

最初の三十秒でやることを決める、かなり厳しいですね。でも、そのくらい絞らないと人は動けないのかもしれません。『まずこの一歩』が曖昧だと、管理画面を開いただけで固まってしまいそうです。

タカシ

そこで効くのが、巨大な設定リストを小さく分解することです。Appcues は checklist を一つの長い導線にせず、まず Builder を入れる、その後に flow 作成、event 計測、goal 作成へ分けました。これで checklist 完了率が二パーセントから二十五パーセントへ改善しました。

ミカ

二パーセントから二十五パーセントは大きいですね。最初から全部見せると『後でやろう』になり、段階を切ると『これなら今やれる』になる。初回設定って、意志の強さではなく、心理的な重さの設計なんですね。

Chapter 3

設計パターン ― 管理者タスクと個人タスクを分ける

タカシ

B2B SaaS で特に重要なのは、各ユーザーがやることと、その会社で一人だけやればよいことを分けることです。Appcues も、アカウント単位で一度だけ完了すべき checklist 項目を全員に課すと混乱すると説明しています。ここを混ぜると、一気に重くなります。

ミカ

たしかに、SSO 連携や利用規約の再同意みたいな作業を、全員が自分の宿題だと思ったら大混乱ですね。現場担当は触れないのに未完了のまま残る。チェックリストの設計だけで、サポート問い合わせが増えそうです。

タカシ

さらに Intercom は onboarding を、基本理解、特定ユースケースの setup、最適化や自動化、という levels に分けています。初回設定を一回で完了させる発想ではなく、使いながら必要な設定を増やす発想です。これは複雑な SaaS ほど効きます。

ミカ

最初の設定を卒業試験みたいにしないわけですね。まず動く、次に合うように整える、最後に自動化する。この順番なら、管理者も現場も『今の自分に必要な設定』だけに集中できます。かなり現実的です。

Chapter 4

具体例 ― 役割別分岐と時短が activation を動かす

タカシ

Fullstory の事例は分かりやすいです。サインアップ時に役割を取得し、プロダクトマネージャー、エンジニア、サポート担当で別々の Workflow を流しました。その結果、プロダクトマネージャー向け activation rate は相対で十四パーセント改善しています。

ミカ

同じ製品でも、役割が違えば最初に確認したい画面も違いますもんね。そこを一律にしないだけで activation が動くのは面白いです。しかも管理者向けには、別の data management action 用 checklist まで用意していたんですよね。

タカシ

もう一つ、Routific では trial から最初の価値到達までの中央値が七十五分、平均では十二時間もかかっていました。そこから product tour と使いやすさ改善を重ね、activation rate は七十パーセント超、価値到達時間は六十パーセント以上短縮しています。

ミカ

平均十二時間は重いですね。設定が長いと、顧客は製品を試しているつもりが、気づけば設定作業だけで一日終わってしまう。初回設定体験の改善って、きれいな UI を作る話ではなく、時間を奪わない経営設計なんだと分かります。

Chapter 5

まとめ ― 初回設定は短く、役割別に、意味つきで

ミカ

今日の話を聞くと、失敗パターンも見えてきます。管理者しかできない設定を全員に見せる、最初から大きな設定画面を渡す、役割ごとに分岐しない、そして完了率だけ見て満足する。このあたり、かなりやりがちですね。

タカシ

その通りです。経営者や PM がまずやるべきは、初回設定を全員共通、管理者のみ、後回しでよい、の三層に分けることです。その上で最初の画面には三から五タスクだけを置き、外部連携や権限設定が必要なら理由つきで案内する。これが基本になります。

ミカ

さらに、テンプレートや仮データで先に価値の輪郭を見せられると良さそうですね。設定が全部終わるまで何も見えないと、利用者は働いているのか待たされているのか分からない。初回設定こそ、進捗の意味づけが必要なんだと思いました。

タカシ

今日は SaaS デザインの初回設定体験を扱いました。皆さんの製品でも、最初の画面に出す作業は本当に五つ以下か、管理者作業を全員へ押しつけていないか、ぜひ見直してみてください。それでは、また次回お会いしましょう。