← エピソード一覧に戻る
Episode 194

聞き方で勝率が変わる ― SaaS営業のディスカバリー

12分 5チャプター 日本語
0:00 / 0:00

スクリプト

Chapter 1

オープニング ― ただのヒアリングでは案件は進まない

タカシ

今日は SaaS 営業のディスカバリーを扱います。資料請求のあとに要望を聞く時間、くらいに思われがちですが、実際にはここで商談の寿命がほぼ決まります。なぜ変わるのか、誰が決めるのか、いつまでに動くのかを掘り当てる工程なんです。

ミカ

ディスカバリーって、私はずっとヒアリングの丁寧版みたいなものだと思っていました。機能要望を集めて、次のデモにつなげる場ですよね、くらいの理解だったんですが、それだと浅すぎるんですか。

タカシ

浅いですね。今の B2B SaaS は、買い手が機能を知ったうえで商談に来ます。営業の価値は説明ではなく、顧客の社内で何が止まりそうかを見抜き、購買プロセスを前進させることに移っています。だから discovery が商談設計の起点になるんです。

ミカ

なるほど。知らないことを教える場というより、相手の中でも曖昧な課題や社内事情を言葉にしていく場なんですね。聞けていないと、あとで法務とか上司承認とかが急に出てきて止まりそうです。

Chapter 2

何を掘るか ― 課題と意思決定の両方を見る

タカシ

Salesforce は、ディスカバリーを見込み客の適合性と動機を見極める会話だと説明しています。しかも複雑な商談では一回で終わらず、複数回、複数部門にまたがって続く。つまり最初の面談だけ上手でも、途中で検証が止まれば discovery は失敗なんです。

ミカ

じゃあ、何を聞ければ成功なんですか。課題を聞くだけだと足りない気がしてきました。経営者としては、営業がどこまで掘れていれば安心なのか、チェックポイントを知りたいです。

タカシ

Winning by Design は冒頭で ACE、つまり感謝、終了時刻、今日の end goal を握り、そのうえで状況、痛み、影響、決裁条件、重要期限、意思決定プロセスを掘る型を示しています。SaaS では課題の深さと、社内で進める条件の両方を同時に聞くのが肝です。

ミカ

たしかに、課題だけ分かっても決裁の道筋が見えていなければ受注しませんもんね。今日この商談で何を持ち帰るのか、誰を次回呼ぶのかまで見えて初めて、前に進む discovery になるわけだ。

Chapter 3

データが示す勝ち筋 ― 話しすぎず、聞きすぎない

タカシ

ここで面白いのが Gong の通話分析です。2025 年に三十二万六千件の営業通話を見たところ、成約案件の売り手の話す比率は五十七パーセント、失注案件は六十二パーセントでした。差は小さく見えますが、独演会になるほど勝率が落ちるんですね。

ミカ

へえ、もっと極端に違うのかと思いました。でも五ポイントの差でも結果が変わるなら、営業がちょっと焦って話しすぎるだけで空気が変わるんでしょうね。質問を増やせば改善する、という単純な話でもなさそうです。

タカシ

その通りです。同じ調査では、成約案件の営業は平均十五から十六問、失注案件は約二十問でした。問いの数より、相手が長く話せる問いか、要約で深掘りできているかが重要なんです。多すぎる質問は、丁寧さではなく尋問に見えます。

ミカ

しかも資料を映して説明し始めた瞬間に、会話の主役が相手からスライドに移りますよね。発見の場なのに説明会になってしまう。営業の現場でありがちな失敗ですが、聞く設計を崩すと discovery そのものが消えるわけか。

Chapter 4

具体例 ― Discovery を仕組みにした会社は強い

タカシ

実例も強烈です。Sprout Social は、痛みを掘る質問をきちんと使えているかを discovery call で追跡しました。その結果、五か月で方法論の採用率が四十パーセント改善し、その型を使った案件は closed-won percentage が平均五十一パーセント高かったんです。

ミカ

五十一パーセントは大きいですね。質問のうまい人がたまたま勝っている、ではなくて、良い discovery の型を見える化してコーチングすると再現できる、という話に聞こえます。経営としてはかなり希望があります。

タカシ

Demandbase も同じです。会話データから A プレイヤーのやり方を横展開し、全体 win rate を五パーセント、競合案件の win rate を十一パーセント改善し、オンボーディング時間も十五パーセント短縮しました。良い discovery は個人芸ではなく、組織資産にできるんです。

ミカ

日本でも、SmartHR のエンタープライズ向けインサイドセールスは二千一名以上の企業を相手に、外部情報や複数部署への架電で潜在課題を掘ると言っていますよね。つまり discovery は会話術というより、企業攻略そのものなんですね。

Chapter 5

まとめ ― 明日の商談で変える三つのこと

タカシ

実務でまず変えるべきは三つです。一つ目、商談前に会社の変化、仮説課題、関係者を一枚で整理すること。二つ目、冒頭で end goal と時間を握ること。三つ目、終わりの五分で次回の目的、参加者、期限まで確定することです。

ミカ

逆に言うと、そこまでやらずに終えた discovery は、感じのいい雑談で終わる危険があるわけですね。商談が前に進まない理由を、相手の温度感のせいにする前に、こちらの聞き方を疑うべきだと分かりました。

タカシ

その通りです。SaaS 営業の discovery は、ニーズ把握ではなく変化の必然性を一緒に言語化する仕事です。顧客が自社内で説明できる解像度まで持っていければ、デモも提案も急に強くなる。聞き方は、受注率そのものなんです。

ミカ

今日は、ディスカバリーが単なる質問集ではなく、案件を進める設計図だとよく分かりました。皆さんも次の商談で、課題だけでなく決裁条件と次の一手まで聞けているか、ぜひ見直してみてください。それではまた次回。