スクリプト
Chapter 1 オープニング ― 一人に刺さっても受注しない
今日は SaaS 営業のマルチスレッディングです。商談相手が前向きでも、情シスや財務や上長のどこかで止まると案件は消えます。だから一人に売るのでなく、顧客組織の合意形成を前に進める視点が欠かせません。
ありますよね、打ち合わせ相手はすごく乗っていたのに、次の週には急に温度が下がる案件。あれって、担当者の気持ちが変わったというより、社内の別の人たちを巻き込めていなかった、ということなんですか。
その理解でかなり近いです。B2B SaaS は導入部門だけで完結せず、運用、セキュリティ、予算、決裁の論点が別々に出ます。窓口担当者ひとりとの関係だけで進めると、途中で必ずどこかに詰まりやすくなります。
なるほど。今日は、接点を増やせばいいという雑な話ではなく、誰をどんな順番で巻き込むと案件が前に進むのか、その設計図を聞きたいです。
Chapter 2 定義 ― マルチスレッディングは組織に通す営業
マルチスレッディングは、単一窓口に依存せず、複数の関係者と同時に接点を持ちながら案件を進めることです。Gong の五万件超の分析では、受注案件は会議に少なくとも三人の買い手が関わり、失注案件は一人に偏りやすいと示されました。
三人が一つの目安なんですね。しかも会議に来る人数だけじゃなくて、実際にはメールでも会話でも複数人とつながっているかが大事そうです。案件が組織に広がっているかを見ている感じですね。
その通りです。同じ分析では、受注案件はメール接点も平均八 contacts、失注案件は三 contacts でした。価値が伝わらないのではなく、社内に伝播しない。その構造を見抜くための管理指標がマルチスレッディングなんです。
営業の腕前の話というより、案件がちゃんと組織案件になっているかの健康診断なんですね。一人だけ盛り上がっている状態は、見た目よりかなり危ないと。
Chapter 3 現実 ― 買い手は最初から複数人いる
そもそも今の SaaS 購買は、一人で決まる前提が間違っています。SaaStr が紹介した調査では、ソフトウェア購買には平均五・六人が関わり、九十一パーセントの買い手が商談中に決裁者の変化を経験したと答えています。
うわ、それだと最初に見つけた担当者を正解扱いするのは危険ですね。しかも途中でキーパーソンが変わるなら、後から現れる人にも通る説明を用意しておかないと、毎回ゼロからやり直しになりそうです。
まさにそこです。だから接点を増やす時も、ただ人数を増やすのではなく、利用部門、管理部門、決裁部門のように論点の違う人を押さえる必要があります。人数ではなく、合意形成の空白を埋める発想が重要です。
名刺を何枚集めたかではなく、誰の不安がまだ未解消かを見るわけですね。これなら、接点を増やしたのに進まない、という残念な増員も減りそうです。
Chapter 4 実務 ― 外にも内にもスレッドを張る
好例が Gong の Mintel です。接点が一人しかいない案件が進みにくいと分かり、複数関係者へ広げる運用に変えた結果、win rate は三十四パーセント改善しました。さらに四 contacts が最適水準だと分かり、案件レビューの基準にしています。
面白いですね。マルチスレッディングって気合いで頑張ることではなく、案件レビューで関係者数を見て、偏りがあればすぐ是正する運用なんだ。管理できる営業に変わる感じがします。
しかも顧客側だけでは不十分です。Salesloft は、ある大型案件で三十七人の stakeholder が関与したと述べていますし、SmartHR も複数部署への架電や AE とプリセールスのチームセリングを前提にしています。外にも内にも糸を張る必要があるんです。
なるほど、顧客の関係者が増えるほど、自社も AE 一人では戦えないわけですね。技術の話はプリセールス、導入後の話は CS というふうに、見せ方まで含めてマルチスレッドにしないといけないんだ。
Chapter 5 まとめ ― 次回商談の目的はもう一人増やすこと
明日からやることは明快です。初回商談の後に、利用責任者、実務責任者、情シス、決裁者、反対しそうな部署の仮説マップを作る。そして次回の打ち合わせ目標を、深掘りだけでなく新しい関係者紹介まで含めて設計することです。
次回商談の成功を、相手が満足したかではなく、案件が一段組織に広がったかで測るわけですね。これなら案件の健康状態も、かなり早い段階で見えるようになりそうです。
本質は、一人の熱量を信じることではなく、組織の合意形成を設計することです。CRM でも、誰と話したかだけでなく、立場、賛否、影響力、次に巻き込む相手を残せば、マネージャーも案件リスクをかなり早く読めます。
今日は、SaaS 営業は一人の担当者を追う仕事ではなく、顧客組織の意思決定を進める仕事だとよく分かりました。皆さんも次の案件で、あと誰を巻き込むべきかを一段深く考えてみてください。それではまた次回。