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Episode 211

誰にでも刺さるは、誰にも刺さらない ― SaaSマーケのメッセージング

12分 5チャプター 日本語
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スクリプト

Chapter 1

オープニング

タカシ

今日は SaaS マーケティングのメッセージングです。誰にでも刺さる言い方を目指した結果、結局誰にも響かない。BtoB SaaS では、この失敗が商談化率と受注率を静かに削っていきます。

ミカ

メッセージングって、コピーライターがホームページの一文を直す話かと思っていました。でも今の話だと、もっと経営に近いテーマなんですね。

タカシ

その通りです。メッセージングは言い回しの美しさではなく、誰に、どの順番で、どんな証拠つきで価値を理解してもらうかの設計です。つまり、ポジショニングを現場の言葉に翻訳する作業なんですね。

ミカ

なるほど。会社としての勝ち筋を決めても、それが相手の頭に入る言葉になっていなければ売れないわけですね。今日はその組み立て方を知りたいです。

Chapter 2

なぜ SaaS で重要なのか

タカシ

B2B SaaS では、買い手が営業に会う前からかなり勉強しています。Wynter の 2024 年調査では、91 パーセントの買い手が営業前にそのベンダーをある程度理解しており、典型的な購買には 5 人の意思決定者が関わるとされています。

ミカ

5 人ですか。現場の担当者、上司、管理者、情報システム、たぶん経理や法務まで入ることもありますよね。同じ言葉で全員を動かすのは無理そうです。

タカシ

そうなんです。だから強い SaaS は一枚岩のメッセージではなく、共通の核を持ちながら、利用者には作業の変化、管理者には統制、経営層には投資対効果という具合に翻訳しています。

ミカ

ホームページのヒーローだけで勝負するんじゃなくて、役職や検討段階ごとに理解の階段を作る感じですね。メッセージングって、かなり設計図っぽいです。

Chapter 3

伝わる会社は何を変えているか

タカシ

Appcues は良い例です。ホームページを検証したところ、『何の製品か分からない』『読み手が自分で話をつなぎ合わせる必要がある』という反応が出ました。つまり情報量はあっても、意味が一本につながっていなかったんです。

ミカ

それ、ありますよね。丁寧に書いてあるのに、読み終わっても『で、私は何を買うの?』が残るページ。親切そうに見えて、実は負担を客に押しつけている感じです。

タカシ

Appcues はヒーローコピー、価値訴求、デザインをまとめて組み直し、A/B テストで visit-to-trial の conversion rate を 73 パーセント改善しました。メッセージが通ると、体験の入口そのものが変わるわけです。

ミカ

コピーを少し磨いた、ではなく、相手が理解する流れを作り直した結果なんですね。マーケ施策というより、認知の設計をやり直した感じがします。

Chapter 4

カテゴリと役割ごとの翻訳

タカシ

Databook も示唆的です。最初の改善では、相手が自社の説明を繰り返して言える割合が 38 パーセント上がりました。ただ、それだけでは足りず、最終的には Strategic Relationship Management というカテゴリの見せ方まで変えました。

ミカ

伝わるようになっても、何者として理解されるかがズレていたら、成長は伸び切らないんですね。メッセージングって、カテゴリの言い方ともつながっているんだなあ。

タカシ

その後のサイト刷新で、Databook は 2 週間で conversion が 67 パーセント増え、qualified leads は 10 倍になりました。Linear も同じで、『今のツールで十分』という反論に対し、記録されていない仕事の損失を言語化し、reported issues 2 倍、作成者 5 倍、600 人移行の実績で裏打ちしています。

ミカ

つまり強いメッセージは、ふわっとした未来像じゃなくて、誰のどの痛みを代弁し、どんな証拠で会議を前に進めるかまで決まっているんですね。かなり営業にも効きそうです。

Chapter 5

よくある失敗と明日からの実践

タカシ

失敗は典型的です。全員に同じ言葉を投げる、ポジショニングが曖昧なままコピーだけ直す、機能一覧を価値だと思い込む、証拠が弱い、そして Web と営業と導入後で別の話をする。この五つが多いですね。

ミカ

サイトでは AI で未来が変わると言っていたのに、商談では工数削減、契約後は運用ルールの話ばかり、みたいなズレですね。あれは確かに、期待値の事故を起こしそうです。

タカシ

まずは直近 20 件の商談を見て、役職ごとに刺さった言葉と刺さらなかった言葉を分けてください。そのうえで、主ターゲット 1 人向けに、困りごと、欲しい成果、嫌がるリスク、効く証拠を一枚にまとめる。ここが出発点です。

ミカ

今日は、メッセージングは上手な言い換えではなく、買い手ごとの理解を設計する仕事だと分かりました。皆さんもまず、自社の説明が誰に向けたものなのかを一度ばらして見直してみてください。それではまた次回。