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Episode 217

広く追うほど、大口は逃げる ― SaaSマーケのABM

12分 5チャプター 日本語
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スクリプト

Chapter 1

オープニング

タカシ

今日は SaaS マーケティングの ABM です。いきなりですが、8x8 は眠っていた ABM を立て直して、1年未満で 6QA 起点パイプラインを 100倍超、ARR を 3,000万ドル超つくりました。かなり派手ですよね。

ミカ

100倍って、もはや別会社みたいな伸び方ですね。でも ABM って、名前はよく聞くのに、結局は広告をアカウント指定で出す話なのかな、と誤解していました。

タカシ

そこが最初の誤解です。ABM は広告手法ではなく、勝つ価値の高い会社を先に決めて、その会社の購買委員会を営業とマーケで一緒に動かす運営モデルなんです。高単価 SaaS ほど効きます。

ミカ

なるほど、リードを広く集めるのではなく、落としたい口座を先に決めるわけですね。今日はその考え方と、どこで失敗しやすいのかを整理したいです。

Chapter 2

ABMの基本構造

タカシ

ITSMA 系のベンチマークでは、ABM は individual accounts を markets in their own right と捉える、つまり一社ごとに独立した市場として扱う発想です。誰に、何を、どの順番で届けるかを会社単位で設計します。

ミカ

一社ごとに市場扱い、って面白い表現ですね。たしかに大きな SaaS 商談って、担当者一人に刺されば終わりではなくて、現場、管理者、情シス、役員まで見ないと前に進みません。

タカシ

その通りです。しかも High Alpha の 2025 SaaS Benchmarks では、主要獲得チャネルとして ABM を挙げた割合が ARR 2,000万ドル超の SaaS で 45パーセントと高い。単価が上がるほど、深く攻めるほうが合理的なんです。

ミカ

つまり ABM は、創業初期の何でも拾うフェーズより、ICP が見えて商談単価も上がってきた段階で効きやすいんですね。誰に勝つかを絞れる会社向きだ、と。

Chapter 3

アカウント選定と計測

タカシ

ここで重要なのが、ABM は名前付きアカウントを無限に増やす話ではないことです。2023 のグローバルベンチマークでは、対象アカウント数は平均 1,000超ですが中央値は 250。Tier を分けて濃淡をつけるのが前提なんですね。

ミカ

平均だけ見ると、そんなに広く追うのかと誤解しそうですけど、実際は上位の少数口座を濃く攻めて、その他は軽く回す設計なんですね。全部を同じ熱量で追ったら破綻しそうです。

タカシ

さらに計測も変えないと失敗します。6sense によると、ABM 実施企業の約半数はいまだに非ターゲット込みの MQL を見ていて、ターゲットの MQA を見る 49パーセントとほぼ同水準です。これでは ABM の効き目が見えません。

ミカ

ああ、それだと営業から見ると、ただリードの名前が変わっただけに見えますね。見るべきは件数より、狙った会社で商談が進んだか、案件が太くなったか、受注が早まったかですね。

Chapter 4

SaaS企業の実例

タカシ

実例を見ましょう。SAP Concur は優先アカウントに対する広告と営業連携を 3から4カ月継続し、closed-won revenue を 52パーセント、deal size を 57パーセント、pipeline を 59パーセント改善しました。反応データを営業に戻したのが効いています。

ミカ

広告が効いた、というより、どの口座が温まっているかを営業が毎週わかる状態にしたのが本質なんですね。マーケだけで完結させないところが ABM っぽいです。

タカシ

FullStory も象徴的です。リード数重視の generic な動きから enterprise 向けの ABM へ切り替え、net-new opportunity revenue を 27パーセント、in-market accounts の ACV を 48パーセント、marketing-influenced qualified pipeline を 36パーセント伸ばしました。

ミカ

量を減らしたのに弱くなるどころか、むしろ商談の質が上がっているんですね。ABM って、案件数を絞る施策ではなく、勝ち筋のある案件構成に組み替える施策なんだなあ。

Chapter 5

よくある失敗と実践ポイント

タカシ

失敗パターンはだいたい四つです。ICP が曖昧なまま営業希望を全部載せる、マーケと営業で別指標を追う、広告配信を ABM だと思い込む、そして結果を急ぎすぎる。6sense は初期成果に 3から6カ月を見込むべきだと整理しています。

ミカ

数週間で pipeline が立たないから止める、は一番もったいないやつですね。特に高単価 SaaS は検討期間も長いから、途中のシグナルを見ないと判断を誤りそうです。

タカシ

実践としては、Tier1 を 20から50社、Tier2 を 100から200社のように分け、各 Tier1 で購買委員会、課題仮説、刺さる証拠を一枚化すること。KPI も MQL ではなく、MQA、商談化率、target account pipeline、win rate に寄せましょう。

ミカ

今日のポイントは、ABM は派手な広告の名前ではなく、勝つべきアカウントに組織で張り付く運営モデルだということですね。皆さんの会社でも、今追っている大口案件を一社、ABM 方式で見直してみてください。